高温高圧、これだけならば、たとえば溶鉱炉や火力発電所などでも程度の違いこそあれ同じような負荷がかかる。自動車のエンジンもしかり。原子炉の場合も熱と冷却の狭間で膨張、収縮を激しく繰り返す。圧力の高さと熱量こそ大きいが、特殊な事情とは言えない。ただ、次に示す問題は原子炉特有のものと言える。それは金属の中性子照射脆化の問題である。
原子炉は核分裂の際に発生する熱を利用して発電している。言い換えるならば熱以外はエネルギー生産に必要ないものなのだ。核分裂で熱だけが発生するのなら、本当に夢のようなテクノロジーである。ただ、現実はそうではない。さまざまな副産物が生まれる。そのひとつが中性子である。どの原子にも存在する、原子核のなかの電気的に中性な要素だ。ウラン235に中性子を当てると質量数90くらいと140くらいの質量数の原子に分裂する。そして、いくつかの中性子が飛び出し、それが再びウランにぶつかって分裂を連続的に維持する(臨界の状態)。この中性子、実はすべてが核分裂に使われるわけではなく、半分以上が分裂以外で消費されてしまう。分裂に使われる以外の中性子のうち、あるものは原子炉の壁にぶつかる。原子炉が稼働する間、その状態が連続してつくられていく。すると、金属がどんどんもろくなりやすくなっていくのだ。
そもそも金属はもろくない。粘り気があって、グニャっとしているものである。自動車事故をイメージすれば理解できると思う。ガラスはバリバリと割れるが、金属はへこんだり、曲がったりするだけだ。粘り気が高いから、こういった状態になるのだが、その粘り気が中性子を浴び続けると下がってしまうのである。
下がると言っては語弊があるかも知れない。正しくは粘性が下がって脆性(もろさ)が上がる境界温度が上がってしまうということだ。金属はそもそも、ある温度まで冷えると急激に粘性が失なわれるようになる。これを脆性遷移温度(延性脆性遷移温度)という。脆性遷移は金属の特性としてある。原子炉の金属も同じだが、中性子を浴び続けることで、その温度が上がってしまうのである。
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